ヴェルサイユ宮殿とスペイン風邪~今こそ知りたい、壮麗な輝きの裏で生まれた歴史とは~

新型コロナウイルスの影響により、世界が大きく変わりつつある今日この頃。ウイルスそのものはもちろんですが、経済的・精神的に人々へ与えるイメージの大きさに、そして先の見えない状況に、言いようのない不安が募ります。けれど、疫病(感染症)の流行はこれまでも幾度となく繰り返され、その度に収束してきました。その歴史を知るほどに、人類の逞しさを感じます。

さて、今回ご紹介するのはパリの人気観光スポット・ヴェルサイユ宮殿にまつわるお話です。ヴェルサイユ宮殿といえば、映画『マリー・アントワネット』や漫画『ベルサイユのばら』など、華々しい王族たちの暮らしぶりをイメージされる方が多いかと思います。しかしフランス革命で王族たちが排された後もずっと、この宮殿は世界各国からパリを訪れる貴賓たちをもてなす場であり、政治の中心となって来たのです。

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<ヴェルサイユ宮殿正面>

スペイン風邪流行のさなかに行われた、パリ講和会議

1918-19年。第一次世界大戦の戦後処理について話し合うべく、戦勝国の首脳らがパリに集いました。しかし、当時のパリはスペイン風邪(インフルエンザ)の流行真っ只中。第一波のときほどの勢いは無いものの、日々確実に感染者・死亡者の数が積み重なっていく、そんな時期でした。まさに緊急事態宣言が解かれて少ししたころの東京のようですよね。

そんな中、1人の重要人物がスペイン風邪に罹ってしまいます。当時のアメリカ大統領ロバート・ウィルソン、戦勝国の首脳の中で唯一、敗戦国・ドイツへの寛大な処置を主張していた人物です。

『驚くことに、(中略)しばしば対立していにもかかわらず、ウィルソンはそのような孤立した状況を甘んじて受け入れていたという』※(注)

特にフランスは普仏戦争で負けた際、ヴィルヘルム1世のドイツ皇帝即位・戴冠式の場としてヴェルサイユ宮殿の鏡の間を提供させられ、屈辱を味わっています。積もり積もった恨みをついぞ果たさんと、英仏からドイツへの要求がどんどんエスカレートしていくのに、歯止めをかける役割をしていたのがこのウィルソンでした。

しかし、病は人を選びません。もともとウィルソンは体が丈夫でなく、講和会議中は寸暇を惜しんで働いていたため過労もあったのでしょう。

『この時の発症があまりに激烈であったために、グレイソンは当初、大統領は毒を盛られたのではないかと疑ったという。グレイソンは大統領の咳込みを抑えることには成功したものの、大統領は一晩中危機的な状態にあったという。(中略)彼の下した診断は、「インフルエンザ」であった。』※(注)

大統領の主治医・グレイソンの懸命な介抱によって一命は取りとめたものの、ウィルソンは4日間病床に臥せり、その後もすっかり気落ちして鬱病のようになってしまったといいます。

ヴェルサイユ鏡の間.jpg
<ヴェルサイユ宮殿 鏡の間>

あとの流れは、みなさんご存じの通りです。

『ウィルソンは言った。「私がもしドイツ人なら、絶対にこの条約にはサインしないだろう」。しかしドイツ政府も、力の限りを尽くして激しく条約を非難しながらも、結局は調印したのだった。』※(注) 

ヴェルサイユ条約により多くの植民地を失い、多額の賠償金を背負ったドイツ国内ではスーパーインフレによって経済が大混乱、ナチスの台頭・第二次世界大戦へと繋がっていくこととなる。

今、できることを。

もし当時、ウィルソン大統領がスペイン風邪に罹らず健在だったなら。ヴェルサイユ条約はもう少しドイツに優しい内容だったかもしれないし、アメリカは国際連盟に加盟していたかもしれない。けれどそれらはすべてタラレバでしかないし、重要なのは同じ過ちを繰り返さないことですよね。日頃から適度な休息を心掛け免疫力と自然治癒力を高めておくこと。罹患した人を責めないこと。多くの人々に余裕がなく、世界中で人々の価値観が大きく変わるタイミングだからこそ、人間力を試されていると感じます。

かつての日本人は疫病の際、東大寺や国分寺・国分尼寺を立て、陰陽師がお祓いをして...と宗教を心のよりどころにしていたことと思います。現代の私たちにとって、心の支えは一人ひとり違うでしょう。私にとっては、いつかまた安全に旅ができるようになった日のために、こうして知識を掘り下げてゆく時間が楽しみの一つになっています。少しでも興味を持って読んでいただけたら、うれしいです。

本の表紙.png

※(注):『 』内は『史上最悪のインフルエンザ 忘れられたパンデミック』みすず書房 アルフレッド・W・クロスビー著、西村修一訳・解説 第十章「パリ講和会議とインフルエンザ」より引用

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