パリのアトリエ・デ・リュミエールで、モネ、ルノワール、シャガールの地中海に遊ぶ

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<« Monet, Renoir... Chagall. Voyages en Méditerranée » © Culturespaces, Nuit de Chine>

2018年春パリに誕生したデジタル・ミュージアム、アトリエ・デ・リュミエール(L'atelier des lumières)。観客が絵画の世界に分け入るという、今までにないアート鑑賞法が注目を浴びています。いずれも人気を博した2018年のクリムト、2019年のゴッホに続いて、2020年は印象主義以来の絵画に描かれた地中海世界を映しだします。会期は2020年2月28日から2021年1月3日までの予定です。

目次

光のアトリエ

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<Atelier des Lumières © Culturespaces / E. Spiller>

アトリエ・デ・リュミエールは、パリ11区、ショパンやモディリアーニら芸術家が多く眠るペール・ラシェーズ墓地の近くにあります。もとは1835年に建てられた旧鋳造所とあり、壁の高さひとつとっても10メートル!という大きなスペースが特徴です。床と壁を合わせて3,300平方メートルとなるスクリーンに、140台のプロジェクターと50台のスピーカーが、デジタル化した絵画にサウンドを組み合わせた映像を投影します。

アトリエ・デ・リュミエールとは、フランス語で「光のアトリエ」という意味。その名の通り、会場に一歩入るなり、入館者らは光に包まれた絵画の世界にどっぷり浸かり、あたかもアートを内側から見るような体験ができるのです。

会場は、床面積1,500平方メートルの広いホールと、160平方メートルのステュディオに分かれ、ホールでは美術史や著名なアーティストを扱った長編作品と、それに呼応する短編作品が交互に上映されます。他方、ステュディオでは、現代アーティストによる作品が上映されます。長編作品の上映周期は約1年と長いのですが、毎年、会期を延長する人気を呼んでいます。

画家たちを魅了した地中海のまぶしさ

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<アンリ=エドモン・クロス『海岸の風景(Paysage côtier)』プライベートコレクション© Bridgeman Images>

2020年に上映される約40分の長編作品は、『モネ、ルノワール...シャガール。地中海の旅(Monet, Renoir... Chagall. Voyages en Méditerranée)』。地中海に魅了され影響を受けた画家約20人の作品500点以上を用い、彼らの描いた地中海世界に観客を誘(いざな)います。

19世紀、地中海が都会のフランス人にとって身近になったのは、技術の発展と無関係ではありませんでした。というのも、パリ―リヨン―マルセイユを結ぶ鉄道が開通したのは1857年のこと。それを機に、ホテル、カジノ、別荘建設など地中海沿岸の観光地開発が進んだ背景があるからです。そののち、パリや仏北部にいた画家たちが地中海の光あふれる色に魅了されるのに、時間はかかりませんでした。

『モネ、ルノワール...シャガール。地中海の旅』は、ルイ15世の命を受けてクロード・ジョセフ・ヴェルネが描いたマルセイユ港で幕開けし、印象派のモネやルノワールの作品がこれに続きます。

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<クロード・モネ『アンティーブ(Antibes)』(1888) Samuel Courtauld Trust, The Courtauld Gallery, London © Bridgeman Images>

モネは、ロダンに宛てた手紙に「ここは、美しく、冴えており、光が溢れている!まるで青い空気の中を泳ぐようだ」とその感動を綴っています。たしかに、モネの描いた地中海にはそのすがすがしい青い空気が満ちているように感じられます。

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<ポール・シニャック『サントロペ、桟橋(Saint-Tropez, le quai)』(1899), Musée de l'Annonciade, Saint-Tropez © akg-images>

新印象派と呼ばれたシニャックやクロスの点描画も地中海のまぶしさをよく表しています。彼らが影響を与えたのがフォーヴィスム。強烈な色彩を用いるフォーヴィスムを代表するマティスやドランの絵は、当時パリではスキャンダラスな作品と捉えられましたが、こういう背景を考えると、キャンパス上に色を解放した彼らの選択に大きく頷きたくなります。

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<アンドレ・ドラン『エスタック、曲がりくねる道(L'Estaque, route tournante)』(1906) Museum of Fine Arts, Houston, Museum purchase funded by Audrey Jones Beck © Adagp, Paris, 2019>

印象主義、フォーヴィスム、またキュビスムにも興味を示しながら、独特のスタイルを築いたデュフィの絵は、青を基調にのびのびと光を描いてみせます。

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<ラウル・デュフィ『アンジュ湾、ニース(Baie des Anges, Nice)』(1926頃) プライベートコレクション© Bridgeman Images © Adagp, Paris, 2020>

そうして、最後に登場するのがシャガールです。地中海の青い海と青い空を背景にしたシャガールの世界が空間を埋め尽くすのを見れば、誰もが青に溺れてしまいそうな気分になることでしょう。

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<マルク・シャガール『青い景色の中の恋人たち(Couple dans le paysage bleu)』(1969-1971)プライベートコレクション, Photo Archives Marc et Ida Chagall, Paris © Adagp, Paris, 2020>

「地中海沿岸へと私を運んでくれた運命に感謝する。僕の絵の中に隠れる場所がひとつあったとすれば、僕はそこ(地中海)に忍び込みたい」とはシャガール自身の言葉ですが、アトリエ・デ・リュミエールでは、まさしくシャガールの地中海に忍び込むことが可能なのです。

『イヴ・クライン、青い無限』と『旅』

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<Simulation « Yves Klein, l'infini bleu » © Succession Yves Klein c_o ADAGP, Paris, 2020>

『モネ、ルノワール...シャガール。地中海の旅』と呼応する短編作品は20世紀のアーティスト、イブ・クラインを扱った約10分の作品『イヴ・クライン、青い無限(Yves Klein, L'infini bleu)』です。
地中海の町ニース出身のイブ・クラインは、モノクローム絵画(単色による作品)を手掛けた画家で、特に「青」にこだわり、独自の色IKB(インターナショナル・クライン・ブルー)を生み出したことでも有名です。

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<« Journey »© Culturespaces, Nohlab>

また、今回ホールでは、『モネ、ルノワール...シャガール。地中海の旅』、『イヴ・クライン、青い無限』のほか、2019年10月アトリエ・デ・リュミエールで行われたアートフェスティバルで入賞した作品『旅(Journey)』(4分)も上映されます。

印象主義絵画の色の粒に取り囲まれて

一方、ステュディオでは、『モーメンツ(Moments)』と題された約15分の作品が上映されます。これは、印象主義の絵画を超高画質でスキャンしたものから作り出された現代作品です。

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<« Moments »© Culturespaces, Melt>

写真にあるように、浮遊する色の粒に取り囲まれていると、彼我(ひが)の境が消えていくような心地すらしてきますが、それこそまさに、新時代ミュージアムであるアトリエ・デ・リュミエールの醍醐味と言えるでしょう。

アート作品の中にどっぷり浸かるイマージフな芸術鑑賞法、どうぞ体験してみてください。

アトリエ・デ・リュミエール(L'atelier des lumières)

  • 住所:38 rue Saint-Maur, 75011 Paris
  • 最寄り駅:メトロ9番線Voltaire駅、Saint-Ambroise駅、3番線Rue Saint-Maur駅、2番線Père Lachaise駅のいずれか
  • URL : https://www.atelier-lumieres.com/
  • 開館時間:月~木10時~18時、金・土10時~22時、日10時~19時
  • サイトより要予約
  • 入館料:大人15ユーロ、65歳以上は14ユーロ、学生12ユーロ、5~25歳10ユーロ

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冠ゆき

山田流箏曲名取。1994年より海外在住。多様な文化に囲まれることで培った視点を生かして、フランスと世界のあれこれを日本に紹介中。

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