【たびこふれ美術館】第9話:油彩画家伊熊夫妻に聞く!~私たちのモチーフの見つけ方~

こんにちは♪

たびこふれ美術ライターのやすおです!

いや~今回たびこふれで連載を持たせていただいて、通算10本目の記事となりました。

最初は「連載記事なんてネタが続くのだろうか・・・?」と自ら半信半疑で始めさせていただいたこの連載でしたが、今では書きたいことがありすぎてどうしよう!!」という状況までやってまいりました(笑)

今後も読者の皆様のお役に立てるような記事をお届けできればと思っているのですが、

今回はより絵画を身近に感じていただくために「インタビュー形式」を取り入れてみることにしました☆

全国の百貨店・美術画廊でご活躍の洋画家夫妻である伊熊様にご協力いただき、「画家の視点から見た、旅のモチーフの見つけ方」をテーマにお話しいただきました。

旅の楽しみ方は人それぞれだと思いますが、プロの画家はどういう目線で旅を楽しんでいるのか?という視点でお話をお伺いしたいと思います!

伊熊さん、よろしくお願いしま~す☆

目次

伊熊夫妻のプロフィール

―ではお二人の経歴からお聞かせいただけますか?―

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義和先生(以下、義和)「子供のころから漫画やイラストレーションに興味があって、そこから少しずつ絵画の世界にも興味を持つようになりました。ただ、そのころは画家になりたいとか思っていなかった・・・というか画家という仕事が現代にあるということも知らなくて(笑)

でもそんな時、雑誌か何かでプロの画家という職業が今の日本にもあることを知って。別の仕事をしていたのですが、そこから土日にカルチャースクールや予備校に絵を本格的に習いに行くようになりました。ただ、仮にこのまま芸大に進んだとしても画家になれるわけではないことになんとなく気づき始めて・・・暗中模索をしていた時に、既に画家としてデビューされていた同い年の画家にインターネットで知り合ったんです。そしてそのことを相談していたらその方の師匠が開いている画塾を紹介していただいて。そして入塾して経験を積んで、デビューさせていただきました。今は全国で個展の開催やカルチャースクールなどで絵の指導もしています」

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梓先生(以下、梓)「私も昔から絵が好きで美大に進むのが夢だったんですが、それは親から反対されたんですね。ただそれなら美大生にも負けないくらいにうまく描けるようになりたいと思うようになって、近くにあった絵画教室に通うようになりました。そこで偶然教えに来られていた師匠と出会ったんです。ただ、彼と同じでそのころは油絵を描こうという気は全くなくて・・・彼と同じく昔の職業だと思っていたんですね(笑)。

でも師匠と出会ってそういう仕事があることを知って感銘を受けて、少しずつ画家を目指すようになりました。それからデビューをして、今では全国の百貨店や美術画廊に出品させていただいています。」

―ありがとうございます。お二人にとって師匠の先生との出会いがきっといい転機だったんでしょうね。それにしても二人とも画家は昔の職業だと思っていたのは面白い話ですね(笑)

二人「ほんとですね(笑)。でもそれを教えてくれた師匠には本当に感謝しています。」

伊熊夫妻の描く絵画とは

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<伊熊義和作「Two Apples」>

―義和先生は静物画・風景画・人物画が多くて、梓先生は動物画・花や風景が多いようですが・・・お二人とも写実的な絵画がお好きなのでしょうか?-

義和「これはよく聞かれることなのですが、実は写実にこだわっているわけではないんです。写実というと写真にのように緻密に・・・と思われがちなんですが、写真のようにとなると、極論、写真で済むと思うんです。もちろんそこを突き詰めていくプロもいらっしゃるんですけどね。なので、私は写実・・・というよりは自分がそのものを見たときの、例えば一瞬リンゴに光があたって「あ、きれいだな」とか思った心の動きを表現したい、共有したいと思っているんです。

ですから、よく「写真みたいですね!」とお褒めいただくんですが、もちろんその方なりのお褒めの言葉だと思うのでありがたく頂戴しますが、それよりも「おいしそうですね」とか「匂いがしてきそうですね」とか言っていただくと、そのものの本質というか、自分の伝えたかったことが表現できたのかなと思います。

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<伊熊梓先生 「黄色い子猫」>

梓「私も同じで、旅のモチーフ探しにもつながるんですが、自分がいいなと思ったその感動を表現したいと思っています。私は身の回りにあるものをモチーフにすることが多いんですが、例えば道端に咲いている花とか、どこにでもいそうな猫とか・・・。そういう周りにあるものを観察して、花を描くならみずみずしさを表現したいとか、猫を描くなら猫の持つやわらかな毛並みを表現したいとか、自分の心の動きに重点を置いて制作しています。

義和「ですので、そういった自分の心の動きを表現するために丁寧にものごとを表現すると写実のように見えてしまうのですが、それは結果そうなっているだけで最初に「写真のようにリアルにものごとを描こう」と思って描いているわけではないんです。

―そうだったんですね。実は私も最初インターネットで作品を拝見したときには「写真のよう」と思ったんです(汗)。ただ、実際に作品を見せていただくと、やはりそうではないものごとを描こうとしているのがわかりました。これからも多くの方にお二人の共感が伝わればいいですねー

二人「そうですね、そう願っています。」

伊熊流 ~旅でのモチーフの探し方~

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<伊熊梓作 「帰港」>

―お二人は絵の題材探しに取材旅行に行かれると伺ったのですが、どのようにしてモチーフを探されるのですか?

義和「私たちが共通するモチーフとしては、ありきたりなものは描かないというところがあると思います。これは師匠の教えも大きく影響していると思うんですが、例えば何度も天野橋立に取材旅行に行っているんですが、今まで有名な股覗きをしたことがないんです(笑)。通常、この場所にきたらここから描くだろうっていう構図ってあると思うんですが、多分そこは私たちがしなくても誰かが表現していると思うんですね。

梓「私たちが天橋立に行ってモチーフに選ぶのは、漁師さんが波打ち際に置いた浮きや網とか、古い船とか・・・師匠の教室ではみんなで取材旅行に行くので、雑に置いた浮きとかにみんなで群がってスケッチして(笑)。なんてことない風景なんですが、そういう日常風景の中にある美しさというか、与えられた視点から絵を描くのではなくて自分で見つけるようにしています。

義和「最初の内は視点を見つけるっていうことも難しくて、師匠に従って視点の見つけ方から教わるんです。そうしてみんな同じ視点から絵を描いて、展覧会にみんな同じ視点の絵を出すと、なぜか師匠のだけがいいんです(笑)。やっぱり自分で見つけた視点は他のものとは違うなにかが入るのかもしれませんね。」

―確かに、私も添乗していて思うのは、カメラをする方は視点がたくさんあるなと思うんです。私は自分があまり写真を撮らないので気づかないんですが、カメラをする方からすると「この路地がいい」とか「この角度がいい」とかって言うんですよね。そういうのを見ていると、たくさん視点があって、違う楽しみ方ができるんだろうなって思いますー

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<伊熊義和作 「アレッツォの眺望」>

梓「この絵は取材でイタリアに行った時のスケッチを油絵にしたものです。この旅行ではローマとフィレンツェには行きましたが、あとはトスカーナ地方の小さな村を巡るのに時間を費やしました。イタリアに行くとなるとやっぱりミラノとか青の洞窟とか・・・観光地を回ることが多いと思うのですが、そういったある意味「ありきたり」な風景ではなく、どこかもわからないしザ・イタリアというものは何もないけど、私たちの心の中にあるイタリアらしい風景を求めて取材を重ねました。見る人の心がここに近ければいいなと思います。

―美しいですね。でも私は歩いているときだったらこの景色は素通りです(笑)。ただ、こうやって絵になったものを見せてもらうと「こんなに美しいんだ」って再認識させられますねー

義和「そうですよね、なんてことない景色に心を動かされる瞬間ってあるんですよね。もし、絵描きでもない一般の趣味で絵を描いている方にアドバイスできるとしたら、旅先でのモチーフを選ぶのにはあまり「絵になるもの」「絵になるもの」って考えないほうがいいかと思います。もっと肩の力を抜いて、ほんとに自分が「いいな」と思ったものを描けたらそれ以上のものはないと思います。もちろんツアーとかだったら集団行動ですから自分だけ立ち止まってというわけにはいきませんが、時間が取れるようであれば、少し時間を使って自分の視点を探してみるといいと思います。」

プロの画家として

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<伊熊義和作 「運河」>

―この絵はどちらの絵ですか?-

義和「ヴェネツィアです。」

―え、こんなゴンドラありましたっけ?-

義和「これは住民の人が使うための船なんです。」

―それを描くかって感じですね(笑)。でも美しいですー

義和「ありがとうございます。でもこの辺りにジレンマもあって、一般の趣味で絵を描かれている方ならいいと思うんですが、私はプロの画家として絵を描いているのでこの辺りのバランスが難しいと思っているんです。」

―というと?-

義和「この作品はヴェネツィアを描いたものですが、通常ヴェネツィアの絵が欲しいと思う方は「観光用の美しいゴンドラ」が描かれてある絵を求めると思うんです。でもこれに値段をつけて販売するとなると、ヴェネツィアの絵が欲しい人からすると「ヴェネツィアなんだろうけど・・・なんだかなぁ」ってなると思うんです。そういう意味では商業作品としては不十分と言えます。とは言え、ありきたりでは面白くない。画家として、一芸術家として、独自の視点と芸術性を保ちつつ、お客様の期待にもできるだけ応えたい。そのバランスはとても難しくて、いつも頭を悩ませています。」

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<伊熊梓作 「森の憩」>

―このリスもとってもかわいいですねー

梓「これは家族でロサンゼルスに行ったときに描いた絵なんです。」

―え!ロサンゼルスに行ってリスを描いたんですか!?―

梓「(笑)。そうなんです、大都会の風景とかはやっぱり馴染めなくて、こっちになっちゃいました(笑)。人に完璧に作られた景色を見るのよりも、やっぱりこういう何気ないところに目が行ってしまうんですね。」

義和「正直、こういうリスの写真なんて探そうと思えばネットでいくらでも探せるんですよね。ただ、そうじゃなくて「彼女がロサンゼルスでリスに心を奪われた」ということが大切なんです。もし写真を見てリスを描いても全く違うものになると思いますよ。」

―なるほど、やっぱり心の動きが大切なんですねー

伊熊さんの活動について

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<伊熊義和作 「茜雲」)>

―本日は長い時間ありがとうございました、アップルパイまでいただいてしまって(笑)―

義和「こちらこそありがとうございました(笑)」

―もし、この記事を読んで伊熊さんの作品を見てみたいと思った方がいらっしゃったらどこに行けば見られますか?-

義和「あいにく常設しているところはないんですが、ちょうど、2020年1月15日(水)~20日(火)まで「福岡三越9階 美術画廊」にて私の個展をさせていただきます。もしよろしければお越し下さいませ。」

―タイムリー!お近くの方は是非って感じですね。梓さんはいかがでしょうか?-

梓「ちょうど先日梅田の阪急百貨店にて行っていた展示が終わってしまって・・・。ただ、よろしければ私たちの絵画教室のホームページにいらしてください。そこから作品などをご覧いただくこともできますので。もちろん興味のおありの方は、絵画教室にもいらしてくださいね♡場所は阪急南茨木駅から徒歩3分ですのでお近くの方は是非♡」

―そうなんですね!お二人のように素敵に描けるようになるなら僕も行ってみたいな~(笑)。本当にありがとうございました、また特集させてくださいませ☆」

二人「こちらこそありがとうございました^^」

>「福岡三越9階 美術画廊」の詳細はこちら

※上記イベントは終了しいています。

基本情報

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編集部註:本記事は2020年1月に公開されていますが、2021年3月に修正しています。

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山上やすお

国内外の添乗員として1年の半分ほどを現地で過ごすかたわら、日本にいるときには各地で美術のカルチャー講師をしています。博物館学芸員資格保有。「旅に美術は欠かせない!」の信念のもと、美術の見方、楽しみ方を記事にしていきます。

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