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【アメリカ】キース・ヘリングとNYCのアンダーグラウンド音楽シーン
<Photo by Tina Paul 1987 All rights Reserved>
"My contribution to the world is my ability to draw. I will draw as much as I can for as many people as I can for as long as I can." - Keith Haring
(私に出来る世界への貢献は、描くことだ。私は出来るだけ多くの人々のために、出来るだけ描く。それだけだ。)
目次
キース・ヘリング
1978年ペンシルバニア州から、ニューヨークに移り住んだキース・ヘリング。
当時の不況下で暴力や差別などが蔓延していたニューヨークは、パンクロック、ダンスミュージック、そしてヒップホップやグラフィティなどのストリート・カルチャーが創り出された起源の街であった。
その頃20歳だった彼にとって、この街はとても刺激的だったのだろう。そんなカウンターカルチャーから多大なる影響を受けた彼は、ニューヨークを原点に世界中の都市を飛び回りながら、芸術を通し、メッセージ性の強い作品を世に送り出してきた。
ニューヨークの地下鉄で、広告の空白スペースにドローイングを始めたきっかけは、大衆の目に止まればと想いを寄せた彼にとって絶好の機会だったのだ。
グラフィティ・アーティストから画廊へ、そして核放棄、反アパルトヘイト、エイズ撲滅、LGBTの認知などの問題にも積極的に取り組んだ活動家として社会に貢献を果たす。
Grace Jones、Andy Warhol、Jean-Michel Basquiatと、一流アーティスト達とのコラボレーションでも知られ、80年代ニューヨークのアンダーグラウンド音楽シーンとも切っても切れない真実が残されている。当時クラブ活動に没頭していた彼は、ニューヨークのダウンタウンでアイコン的存在として認知されていた。RUN DMC、David Bowie、Sylvesterなどのアルバム・ジャケットや、Madonnaの衣装デザインを手掛け、音楽シーンと彼のアートワークが互いに感化し合った関係性である事を物語っている。
1984年5月4日、26歳の誕生日には"パーティー・オブ・ライフ"というイベントを自らの主催で、伝説のパラダイス・ガレージで開催。Madonnaのパフォーマンスを筆頭に、Larry LevanによるDJプレイ、空間には自らのドローイングを施し、大成功となったこのイベントは音楽史にも深く刻まれている。
あくまでもストリート志向な彼の才能は、アンダーグラウンドは当然ながら、境界を超越しポップカルチャーにも大きな波紋を巻き起こしたのだ。
<1984年パラダイス・ガレージで開催されたライフ・オブ・パーティーの招待状>
街中に残されるキース・ヘリングの軌跡
ニューヨーク市では、彼の作品を鑑賞出来る場所がいくつか保護されている。そんなスポットを巡ってみた。
ハーレムにある公園
この作品は、麻薬中毒に対する問題への意識の高まりを世に伝えた代表的なものである。
彼のスタジオアシスタントがクラック中毒になったことから、薬物依存者を救うために努めていた。クラックとはコカインと重曹を混ぜた麻薬。中毒性が高いうえ、安価で出回っていたため、80年代後期に貧困層を中心に大流行した。
中毒者は医療機関、健康保険などの支援を受けるのが困難であり、キースは麻薬中毒者の問題対処に関して無力な政府に対する不満を示したく、良く通っていたハーレムにある公園のハンドボールの壁にドローイングをすることを決意したというストーリー。
当然ながら公共施設にドローイングをする行為は不法であり警察に捕まるが、奇跡的に牢屋生活を逃れた。その理由に、当時クラック中毒に関する議論は国家的な問題であり、社会的に重大であったため、彼の壁画は多くのメディアに取り上げられたそうだ。
その結果人々を共鳴させ、最終的に本人さえも救い、全ての展開が変わった。その後、ニューヨーク市からの支援と承認を受け、改めて塗装するよう依頼をされたものが、現在もここで保管されている。
社会の人々の想いを代弁し、「理想」と「現実」の狭間にいる媒体がアーティストだと信じた彼のリアルな声が伝わってくる作品だ。1987年にJump Street RecordsからリリースされたBipoの「Crack is wack」でのアルバム・ジャケットのコラボも果たしたレコードは、音楽史に刻まれるクラシック・ヒップホップのレア盤ともなっている。
【Crack Is Wack Playground】
- 住所:2nd Ave, New York, NY 10035
セント・ジョン・ザ・ディヴァイン大聖堂
<Photo by Helena Kubicka de Bragança>
1990年の死去2週間前に、世界の平和に想いを馳せ「オルターピース(祭壇飾)」を制作したものだ。教会の祭壇のオルターピースとして世界に9つあるエディションの一つである。
ブロンズに彫刻した《オルターピース:キリストの生涯》は、この世界的にも有名なキリスト教教会であり、彼の追悼式の行われたこのセント・ジョン・ザ・ディヴァイン大聖堂て展示されている。死を目前にした彼の平和への願いと希望、命に対する想いが刻まれた最後の作品である。
【Cathedral St. John the Divine】
- 住所:1047 Amsterdam Ave, New York, NY 1002
その他にも、ブルックリンにある病院や、LGBTコミュニティー・センター、グリニッジ・ヴィレッジの公共プールでも彼の作品は保護されているため、気軽に訪れる事が可能だ。実際にこれらを公共の場で鑑賞すると、彼が生涯をかけて世に送り出してきたアートは、ストリート文化に深く根付いているのが伺える。
階級や地位、性別や人種、宗教や文化の違いに関係なく、誰もが触れることの出来るポップな芸術を追求したキース・ヘリングのアートワークは、テロや戦争の耐えない現代社会へ時代を超えて力強いメッセージを伝えているのではないだろうか。芸術が日々の生活と交差し、アーティストの意図がこういった形で身近に街に浸透している風景は、音楽や芸術文化の盛んなニューヨークの醍醐味の一つでもある。
キース・ヘリングの作品が見られるスポット
【Woodhull Medical Center, Brooklyn】
- 住所:760 Broadway, Brooklyn, NY 11206
【Lesbian, Gay, Bisexual & Transgender Community Services Center, Greenwich Village】
- 住所:208 W 13th St, New York, NY 10011
【Carmine Street Swimming Pool, West Village】
- 住所:1 Clarkson St, New York, NY 10014
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Yayoi
- ニューヨークを拠点に音楽、レコード、芸術、カルチャーなど様々な情報を発信するライターです。