19世紀から続くインドの弁当配達ビジネスと、進化する「出前」

ムンバイに残る、驚異の弁当配達サービス

インド西部に、アラビア海に面したムンバイという街があります。かつてはボンベイと呼ばれた、インド最大の商業都市です。

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一般に観光客はデリーやジャイプールなど北インドを旅することが多いのですが、なにせインドは広大な国。南も西も、また趣が異なり楽しめます。

1858年から1947年までイギリスの植民地だったため、インド各地にその時代の建物が残されていますが、ムンバイも例外ではありません。市役所庁舎や世界遺産に登録されるチャトラパティ・シヴァージ・ターミナス駅をはじめ、たくさんのコロニアル建築が街に溶け込んでいます。

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そしてもうひとつ、ムンバイで注目していただきたいものがあります。「ダッバーワーラー」と呼ばれる、弁当配達人たちの存在です。

インドでは、宗教の違いなどから、人により食べられるものが異なります。そのため、奥さんが作ったお弁当を食べる人が多いのですが、混雑するラッシュ時の電車にお弁当を持ち込むのが大変だったり(インドのお弁当箱は三段式のステンレス製でとても大きいのです)、奥さんも早朝からお弁当を作るのが大変だったり、色々と不便があります。

そこで登場するのが、「ダッバーワーラー」です。彼らは各家庭から集めた弁当箱を、お昼までにそれぞれの職場へと正確に届けます。驚くのはその数。

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なんとムンバイには、約5000人のダッバーワーラーがいて、毎日約20万食の弁当が運ばれているといいます。30個、40個の弁当を手押し車に載せて歩く人もいれば、自転車や電車(ラッシュ時を避けて)で移動する人もいます。

いずれにせよ、指定された相手にきちんと時間どおり配達するそうです。料金は月額300~350ルピー(約500~600円)です。クロネコヤマトもびっくりでしょう。

サービスの起源は、イギリス統治時代の1890年代。ランチボックスを仕事場に持参するのを恥ずかしがったイギリスの官吏が、使用人にランチを届けさせたことから始まった、と言われていますが、一方でインド料理が口に合わず、使用人に西洋料理を作らせ持って来させたのがきっかけという説もあります

いずれにせよ、イギリス人が始めたものであることには違いないようです。インドが独立し、イギリス人が去った後は、主にインド人のエリート・サラリーマンたちが利用しています。

このシステムのすごいところは、「完全なペーパーレス」で運営されていることです。なぜならダッバーワーラーたちは、文字を読める人の方が少ないからです。独自のルールに基づいた色・数字・記号を弁当箱に書くことにより、配達先がわかるようになっています。

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さらにすごいのは、誤送の少なさ。「アナログの極み」とも言えるようなシステムにもかかわらず、誤送が約600万回に1回しか起きないことなどから、世界的にも非常に注目されていて、ハーバード大学でも研究がされています。配達の仕組みを他のビジネスに応用している組織も少なくないようです。

位置情報を利用した現代版の「出前」

ダッバーワーラーは超アナログなサービスでしたが、一方で、テクノロジーを駆使した現代版の「出前」ビジネスと呼べるものも近年登場しています。

米Uber社が世界中で展開する「Uber Eats(ウーバーイーツ)」というサービスで、日本には2016年9月に上陸しました。現在は東京・横浜・川崎と大阪で利用することができ、徐々に利用エリアが広がっています。

「Uber Eats」は飲食店・利用客・配達人を位置情報システムの力で最適にマッチングさせる見事なサービスです。

5_Uber_Eats.png
<引用:Uber Eats(https://about.ubereats.com/)>

たとえばあなたが家にいて、そろそろお腹が空いてきたけど、外に出るのは面倒だし、何か出前を頼みたくなったとします。

これまでは出前といえばピザや寿司が一般的で、その他のチェーン店も独自に配達サービスをやっていたりしますが、このUber Eatsのホームページやアプリを開けば、最寄りの飲食店のリストがざっと出てきて、好きなお店から好きなメニューを選べます。和食、中華、イタリアン、メキシコ料理など、幅広いジャンルがあります。

注文ボタンを押すと、エリア内に散らばっている配達員のうち、その飲食店の近くにいる人に配達依頼の通知が流れます。そして配達員がお店で注文された品を受け取り、アプリの指示に従って、利用者の自宅まで届けるという仕組み。配達員の移動手段は自転車かバイクが主で、都内では自転車で配達する人が多いです。

この配達員はアルバイトなのですが、シフト制ではありません。それぞれが、好きな日に好きな時間だけ仕事をでき、配達回数や走った距離に応じて賃金が計算され、翌週には銀行口座に振り込まれます。シフト制ではない、というところが斬新で、現代人のニーズを捉えたおもしろいシステムだなと感じます。

実は私も先日、この配達員の仕事を体験してみました。専用のリュックを背負い、恵比寿・広尾・六本木エリアで朝9時半から13時半まで、シェアサイクルで走り続けました。

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サービスの利用者は、実際の料金に加え、配達料として380円が追加でかかります。しかし、都内の住民たちにとっては、外に出る手間などを考えると、あまり気にならないのでしょう。

利用者は圧倒的に主婦の方が多く、「わざわざ化粧して、離れたお店まで食べに行ったり買いに行ったりするのが面倒」と思っていそうな様子でした。多くの方がうつむき加減で料理を受け取られたのは、きっとノーメイクだったからでしょう。

4時間で9件の配達をこなし、得られた収入は約5400円でした。お金以上に、体験してみて初めてわかる世界があり、おもしろいな〜と感じました。

Uber Eatsの公式サイトはこちら

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中村洋太

旅行情報誌の編集とツアーコンダクターとしての経験を経て、フリーランスライターに。自転車で西ヨーロッパ一周、アメリカ西海岸縦断、台湾一周を達成したほか、東海道五十三次600km徒歩の旅も。

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