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イタリア・オルチャ渓谷と温泉を巡る2日間
先月、私の誕生日に1泊2日の小旅行に出かけてきました。行き先は南トスカーナ。世界遺産にも登録されているオルチャ渓谷の風景と、イタリア流の極上温泉に癒やされた旅行の様子をレポートします。
ダイナミックなパノラマが魅力の野外温泉
イタリアは日本と同じく火山大国で、各地に沢山の温泉が湧き出ています。
私たちがよく訪れるのは、南トスカーナ・シエナの近くにある温泉地ラポラーノ・テルメです。ラポラーノには二箇所温泉施設がありますが、私のお気に入りはそのうちの一つテルメ・サン・ジョヴァンニ。
ここの魅力は何と言っても広く大きな温泉プールと、そこからの眺めです。トスカーナ独特のなだらかな丘風景、ニョキニョキと細長く伸びる糸杉、そして石造りの家や中世の街並みを遠くに眺めながら、温かいプールでゆったりとリラックスすることができます。
温泉と言っても、イタリア流は日本のそれとは大きく異なります。混浴ですので水着着用。温度は基本的に32〜35度ほどと低く、温水プールくらいのぬるま湯です。 初めて入った時は温度が低すぎて物足りなさを感じましたが、何度も通ううちにイタリア流温泉の良さを実感できるようになりました。
美しい大自然の中で、寒さを感じることなくプカプカと湯に浸かりながら、ボーっと丸一日水中で過ごしていると、体中のこわばりが解けていくのを感じます。昼は青空と雲の流れを、夕暮れ時は茜色に染まる空を、夜は満点の星空を、温かいお湯の中から眺めるのは最高の気分! 日本のお風呂ほど熱くないので、汗をかくこともなく、長時間お湯の中で過ごすことができます。イオウ成分入りのお湯と重曹パックで、お肌もツルピカになりますよ。
この日は誕生日当日だったので、施設内のBarで自家製ケーキをいただきました。トルタ・デッラ・ノンナはイタリアの伝統的なドルチェで、クリームに松の実をたっぷりのせた素朴なタルトです。 いつもなら日帰りするのですが、この日は温泉施設からすぐの場所に宿を取り、日が沈んでからも思う存分温泉を堪能しました。
冬の雨に濡れる趣きある修道院
小旅行2日目。ラポラーノ・テルメを出発し、周囲をドライブしながら、モンテ・オリベート・マッジョーレ修道院を見学しました。
修道院はアッシャーノという街から数キロメートル離れた森の中に、ひっそりと佇んでいました。雨で人が少なかったからか辺りの森には神聖で厳かな空気が漂っていて、中世の大規模な修道院の威厳を引き立てていました。
修道院の中には、聖ベネデットの生涯を描いた美しいフレスコ画がずらりとならぶ柱廊があります。順番に沿って聖者の生涯を辿り、奥の聖堂へと進みます。教会内は修道院の規模の割に小さめでシンプルでしたが、見事な装飾とステンドグラスの美しい祭壇がありました。 別棟の建物の中には、修道士たちが作った薬草やハーブを使ったお菓子やお酒、サプリメントや化粧品などを売る売店があります。入り口に「修道士特製の地ビール」と書かれたポスターが貼られていて、ちょっと興味をそそられました。
クレータ・セネーゼと世界遺産の丘風景
修道院の見学後は、クレータ・セネーゼというこの地方特有の粘土質の土が織りなす丘風景の中をドライブです。世界遺産登録されているオルチャ渓谷も、このクレータ・セネーゼという土が作る丘陵地一帯を指しています。 残念ながらこの日はあいにくのお天気で、霧が立ち込めて周囲が霞んでしまいました。
数年前の写真ですが、もし晴れていればこのように、青い空と緑の丘とのコントラストを楽しむことができます。私たちが一般に「トスカーナ」と聞いて思い浮かべるのは、こうした絵葉書の中のような丘風景だと思います。手でそっと芝生を撫でてみたくなるような、猫の背中のような丘だと思いませんか?
遡ること11年前、旅行で訪れたイタリアでこうしたトスカーナの優しい自然に触れた私は、「いつかここで暮らしてみたい!」と密かな決意をしました。それから長い年月が過ぎて、今自分がこうしてイタリアに暮らし、誕生日をオルチャ渓谷で過ごしていると考えると、とても不思議な気持ちになります。長い道のりを沢山の人々や幸運に支えられてがむしゃらに歩み、ふと振り返れば大切な夢が幾つも叶っていたのでした。
トスカーナの風景は私にとっては第二の故郷。そして、イタリア生活の出発点でもあります。 2004年に世界遺産登録されたことにより、この風景はきっとこの先もずっと変わらずにここにあることでしょう。そしてこれからもずっと、輝くトスカーナの太陽の下、訪れる者の心に温かな癒やしを与えてくれると思います。
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佐藤 モカ
- イタリア・フィレンツェ在住。作家、フリーライター、マーケティング各種リサーチやコーディネートなど。2013年女児出産、現在育児奮闘中。