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世界でもっとも美しい病院、<世界遺産>サン・パウ病院
ここ数年、サグラダ・ファミリアの影響かサッカーのバルサの影響か、日本ではバルセロナが大人気。もはやスペイン=バルセロナのイメージがあるようですね。実際バルセロナのあるカタルーニャ州はスペインからの分離独立を願う地域なのですが...(^^;)スペインの多様性を愛する私にとって、このバルセロナばかりが注目される傾向は少々鼻につくのですが、つい先日バルセロナに行き、やはりその魅力をひしひしと感じました。
バルセロナに行く機会があると、毎回どこか観光モニュメントを訪れることを心がけています。今回は念願かない、4年にも渡る修復期間を終え、約2年前に一般公開が始まった世界遺産のサン・パウ病院を見学してきました。
サン・パウ病院の正式名称はサンタ・クレウ・イ・サン・パウ病院。まず最初に驚くのは、この病院の起源は14世紀初頭にまで遡るということです。当時あった6つの病院を統合し、現在カタルーニャ図書館がある場所にサンタ・クレウ病院ができたのだとか。日本は室町時代です。20世紀の初め、産業の発展による人口増にともない新しい大きな病院が必要となり、ガウディ同様モダニズムを代表する建築家のルイス・ドメネク・イ・モンタネール(現地語ではリュイス・ドメネク・イ・ムンタネー)が選ばれ、新病院の建設がスタート。1930年に開院となりました。
病院の敷地面積は、なんと14万5,000平方メートル。患者1人あたり145平方メートルの空間を見積もったという発想にも驚かせられます。当時の富裕層は家に主治医を呼び治療ができたので入院するということはほぼ皆無で、実際にこの病院の世話になっていたのは貧困層の人達が多かったそうです。ガイドさんは「きっとみんなここから出たくなかったはず」と説明していましたが、まさにその通りでしょうね。
最初の計画では敷地内に48の建物が建つ予定でしたが、最終的には27になりました。その内の16がモダニズム建築で、12棟はモンタネール、残りは息子によるものです。敷地内のモダニズム区域全体が写っている写真を見ると、細かい装飾で飾られた赤レンガの建物が並び、まるでおとぎの国のよう。現在はこの区域の3つの建物の内部が公開されています。
<モダニズム区域の模型>
メインは、正面玄関から見ると両手を広げて迎えてくれる病院管理事務所の建物です。モダニズム区域内で最大、かつもっとも凝った装飾が施されています。陶器タイルで覆われた玄関ホールの天井やそこから続く階段など、その美しさには思わずため息をつかずにはいられません。
ピンクの色合いがやさしい雰囲気を醸し出す玄関ホールの天井
階段ホール天井にある美しいステンドグラス。
聖ラファエル館は入院病棟だったそうで、当時の写真が飾ってありました。娯楽室まで併設されていたそうです。ほかの建物には重症患者用のバスルーム完備の個室まであったのだとか。こじんまりした聖ジョ?ディ館は、完成当初は男性患者の所見と検査をする場所でしたが、その後は総合救急棟、および小児科として使われました。
モダニズム区域のこの3棟以外の建物は、世界保健機関や国連大学、アジア文化センターなどの施設として使用されています。なお、どこも2009年までは病院の施設として使われていましたが、現在病院機能は敷地奥の新しい建物群に移っています。
<中央館の美しい陶器タイル装飾>
どうして病院にこれだけ豪奢な建物が作られたのか。その理由の最も大きなひとつが、カタルーニャ出身の銀行家パブロ・ヒル(現地語ではパウ・ジル)が莫大な遺産の一部を寄付したことです。偉大な芸術作品の後ろにパトロンあり、ですね。それでも、現代ではどんなにお金があっても建物にここまで資金と時間を費やすことはあり得ない話でしょう。
見学はフリーかガイド付きツアー(カタルーニャ語、スペイン語、英語、フランス語)がありますが、もし言葉に問題がなければぜひとも後者をおすすめします。
なお、モンタネールはカタルーニャ音楽堂や、現在1階にロエベの店舗が入っているグラシア通りのリェオ・モレナ邸も手掛けています。モダニズムはガウディだけではありません。足を運んでみてくださいね。
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田川敬子(Keiko Tagawa)
- 1996年スペインにひとめぼれ。以後何度も渡西し、2002年春に夢がかなってスペインで日系企業に就職。その後現地企業を経て、現在はオリーブオイルソムリエ/テイスターやライターとして活動中。