阿蘇の秘祭に見るダイナミックさと神秘性!その裏に「素朴な心」あり

田作祭

全国に約500社あるという阿蘇神社の総本社、阿蘇市一の宮町にある「阿蘇神社」の拝殿がついに完成しました!熊本地震での倒壊から5年経った今年(2021年)の7月、全国からの熱い支援を元に念願の復興です。その数ヶ月前に、ある重要なお祭りがここで行われました。コロナ禍であろうが催行必至の、土地の人々にとっては欠かせない大切なご神事です。

目次

ダイナミックさと神秘性を持ち合わせたご神事

阿蘇神社に、昔からずっと続く有名なお祭りがあります。「田作祭(たつくりさい)」といって、こちらの神社にいらっしゃる「国龍神」と、嫁いで来られた「妃神」との婚礼の儀式です。神様たちが結ばれるのを祝うなんて、もの凄くおめでたい感じがしませんか?このお祭り、夜になると近隣の住民が、神社参道で大きな萱束に火を付けて振り回し盛大に祝う「火振り神事」も行われるといった一大行事なんです。

この「火振り神事」は、写真などで見たことがある人もいるかと思いますが、とにかく見た目にインパクトがあるので写真が好きな人にとっては逃せない行事です。私もこの「燃え盛る火の輪」の写真を見て圧倒され、実際に見てみたいと祭りの日に阿蘇神社まで足を運んだうちのひとりです。

火振り神事

このお祭りに参加してから更にその魅力に惹きつけられ少し調べてみたところ、思っていたのとはまた違った角度で奥深い面白さを知ることになりました。お祭り自体の「見た目のダイナミックさや神秘性」も素晴らしいのですが、その裏で祭りを形作っている一連の動きが、本当に素朴で心の込もったものだったのです。

暗闇でおこなう秘密の儀式

祭り当日の朝に神職が、お嫁に来られる「妃神」をとある場所へと迎えに行きます。その長い道のりを歩いて、または馬に乗って移動し、労力を惜しまず時間をかけて阿蘇神社までお連れします。神社に到着する頃はもう薄暗く、ご神体ご一行が鳥居をくぐって入って来られる少し前には萱束に火がつけられ、歓迎の儀式である「火振り神事」が始まります。

火振り神事が始まる直前、目の前を通った関係者らしきおじいさんに話かけると「妃神さまが神社に到着したら、すぐ国龍神さまの元へ行き儀式が始まるから、そこへ行って見ておいで」と、大切なことを教えてくれました。移動するご神体ご一行の後を慌てて追いかけて行った所、神様たちがいる部屋の中は儀式が始まった途端に電気が消されてしまい、真っ暗闇で何も見えません。

火振り神事

薄っすらと影が見えるぐらいで何がどう動いているのか全くわからないのですが、確実に何かが行われている気配があります。人がふたり隠れる程の大きな番傘の向こうでは厳粛な世界が繰り広げられているようで、時折発せられる「おおおおおおお...」という神職の厳かな声が繰り返し響いてきます。

神々の婚儀によって、その年の農作物の豊穣が祈願されるというこの儀式。真っ暗闇の中で、自分たちの目前で神様の婚儀が行われているという事実に圧倒されてしまいます。婚儀を見ようと集まって来た人達も、黙って一歩も動かず部屋の奥をジッと見つめるばかり。この暗闇での静かな祈りのような時間と、外で同時に行われている燃え盛る火の儀式とのコントラストが何だかとても美しく、互いに共鳴しているように感じられました。

火振り神事の場所へと戻ると、たくさんの火の輪の中に、さっきのおじいさんの姿が見えました。萱の火をまわす姿はゆったり堂々としています。若い頃からずっとこの火振りをやって来られたそうで、この土地に根差し時間を経てきたその姿はひときわ誇り高く、見ている者の目を引きます。

氏子以外の来訪者による火振り参加は、コロナ禍によって今年は難しいと苦渋の判断で行われなかったそうですが、それまでは来訪者も参加できていたというから驚きです。地元民のための大切な神儀式に、私達のような外からの人間を参加させてくれていたなんて、本当に大らかな土地柄ですよね、懐の深さを感じざるを得ません。

民家に泊まり歩かれる神様?

田作祭

神様がお神輿に乗って運ばれる姿は、全国各地の祭りでも見かけることができます。ですが、ここの「国龍神」は田作祭の期間中に繋がりのある社家の家へとお神輿で運ばれ、一週間渡り歩かれながらお泊まりをしてまわります。神社の神さまが民家でお泊まりをするなんて驚きですよね。各家では神様を歓迎して神楽を舞ったり一緒にご飯を食べたりするそうで、神様という崇高な存在をとても親しみを持って迎え入れているようです(※1)

華やかな祭りが執り行われた神社の境内を後にし、神輿の後について行きました。神様が向かう社家への道は道灯りも薄暗いような小道。道沿いに続く小さな小川の流れる音を聞きながら、静かに神輿を担ぎ歩いていく一行のあとについていきます。さっきまでいた沢山の人々は家路へと向かい、もうここには御輿を担ぐ神職と、何かに引っ張られるようについて来てしまった数名の姿しかありません。

静寂の闇。さっきの婚礼時のどこか昂揚した闇とはまた違った、穏やかな気配に包まれた闇の中を神様の導きのままに歩いていくのも稀な体験です。社家でどのように受け入れられているのだろうと想像を膨らませながらついて行きましたが、一行は社家の門をくぐって静かに薄灯りの中へと消えてゆきました。ここから先の歓迎の儀はきっと秘密なのでしょう。

(解説※1)社家宅に「国龍神」の神輿が泊まる理由は、国龍神が社家の祖先神と位置付けられているためだそうです。近世以降に祖先神が毎年妃神を迎える、という解釈になりましたが(当初は妃ではなく神木を迎える、という解釈)、いずれにしても社家たちのアイデンティティが強く示されるのが田作祭のカラーということです。

 社家までの道のり

素朴で日々に寄り添う願い

実はこの7月に、御田祭(おんだまつり)を催行する予定だった阿蘇神社。こちらは残念ながら催行は叶いませんでしたが(※2)、阿蘇神社には他にも年間を通していくつかのお祭りがあり、そのどれもが土地の人々の生活にじっくりと寄り添った内容となっています。

例えば「御田祭」は、阿蘇神社の12の神々が神輿に乗って田んぼの生育を見てまわるものですし、毎年の田歌の歌い納めとして、氏子約100名が夜の街中を田歌を歌いながら練り歩くようなお祭りもあれば、「風祭り」は風宮でのご神事の後、ふたりの神職がお祓いをしながら田沿いを歩いて悪い風を追い立てるというものだったり...そのどれもこれもが素朴で、この地域周辺の人々と共に生きてきたプロセスが目に見て取れるようです。

見た目の華やかさや神聖さだけでなく、その裏にある「神々と人間との素朴な交流」が感じられる阿蘇神社のお祭り。脈々と受け継がれてきた伝統を、常に身近に置きながら今まで大切に守ってきている地域の人々と阿蘇神社。そんな阿蘇の大地の大らかさが生んだ素晴らしいお祭りの数々を、ぜひ肌で感じに行ってみてはいかがでしょうか。

(解説※2)今年の御田祭は完全なる中止ではなく、関係者(小人数)で主要神事のみを行われたそうです。大衆が目にする行列は出なかったものの、可能な限り祭りの威儀を損なわい方式を検討した上で執行されました。

2021年版「田作祭と火振り神事」動画

阿蘇神社

  • 住所:熊本県阿蘇市一の宮町宮地3083-1
  • 電話:0967-22-0064 
  • 参拝時間:6:00~18:00(駐車場開閉)/09:00~17:00(御札所)9:00-17:00 (社務所)
  • アクセス:
  1. JR豊肥本線 宮地駅から徒歩15分
  2. 九州産交バス 阿蘇駅前下車
  3. 熊本インターから車で1時間

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Hinata Yoshioka

フォト&ライター。国内を転々と旅した後、沖縄にたどり着き12年を過ごす。現在は神戸を中心に活動中。ハワイ好きでフラ歴もあり、ロミロミマッサージのセラピストとしての一面も持つ。好きなことは料理・物作り・音楽・読書・写真・旅などあらゆることに興味はつきない。世界を船でぐるり2周した物語もWebで掲載中!!

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