映画「夕陽のあと」長島町プロデュース小楠雄士さんインタビューで伝わった思い

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(©2019長島大陸映画実行委員会)

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鹿児島県長島町初めての映画となる「夕陽のあと」。自身初の映画プロデュースとなる小楠雄士(おぐすゆうじ)さんがこの作品を通じて発信したかったメッセージとは何だったのか?今回、単独インタビューを行い、彼の"思い"を受けとめましたのでたびこふれでレポートします。

目次

小楠 雄士さんのプロフィール

東京都出身。楽天(大手ECサイト運営会社)→幻冬舎(出版社)と企業に勤めるサラリーマンだったが、鹿児島県長島町が募集した『長島町を題材とした映画制作担当』の地域おこし協力隊隊員に応募し2018年2月に着任した。

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小楠さんが長島町「地域起こし協力隊」に参加された理由は何ですか?

サラリーマンを約10年経験した頃でした。会社では本、電子書籍、DVDの販売といった出来合いのものをどれだけ効率的に効果的に販促していくかが重要視され、それなりに結果も出して充実してもいました。しかし同時に誰かがつくったものではなく、自分自身が「ものづくりの現場に入りたい。」という思いも強くなっていました。そんな時、父が亡くなり、妹は会社を辞めてロンドンに留学を決心しました。私も30歳を越え人生の節目を感じて、経験の無い分野でしたが思い切って飛び込むことを決めました。

長島町のどんなところに惹かれたのですか、実際住んでみた印象は?

第一印象は「この島なら暮らせそうだな」と感じましたね。

長島町はひとことで言えば「豊か」なところです。食べ物や景観ももちろんそうですが、長島には生産者さんが多いんです。仕事と暮らしが密接な関係にある。「この人、生きてるな」と感じるような、豪快で男気のある快活な人が多いんですよ。島外に出てパッとお金を使ったりすることもあって田舎と聞いて都会の人がイメージする牧歌的な印象はなく、逆に都会的な匂いがしましたね。

漁業や農業は災害が起きるとその年の収入がゼロになってしまったりというリスクも大きい仕事です。彼らからは"生きることへの覚悟"を感じるんです。物事の決断も早いんですよ。男気があるといいましたが、女性もたくましいですね。子供たちも活発で、その辺にある何かを持ってきて遊びを作ってしまうんです。そういったことを含めて長島は"豊かな所"です。

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(長島大陸市場食堂前で)

長島町に訪れる人に小楠さんが薦めたい"とっておきの場所"は?

やはり映画「夕陽のあと」の撮影地を見てもらいたいですね。撮影に際して、監督やキャメラマンたちとロケハンは徹底的にやりました。

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スタッフの皆さんと充分に検討した結果、海沿いにある日野家(豊和が住んでいる家)が決まったときは嬉しかったです。「あの家族が住んでいる家はここしかない」と思っています。

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(©2019長島大陸映画実行委員会)

小楠さんが薦める長島町の美味しい食べ物って何ですか?

長島町名物である鰤王(ぶりおう)など新鮮な魚介はもちろん美味しいのですが、B級グルメなら食堂いしもとのカツ丼ですね。プラス100円でカツ丼のカツを「厚切り」にできるんです。その厚切りのカツは絶品です。

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また地元で通称"バスラーメン"と呼ばれている万来(ばんらい)のラーメンも旨いです。もとは廃車のバスを店舗にラーメンを出していたのがその名の由来だそうです。さっぱりあっさり味のラーメンで病みつきになります。

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どんぶりが使いこまれて柄が消えかかっているのがまた味がありますね。

映画「夕陽のあと」を通じて小楠さんが伝えたかったことは何ですか?

長島の外の人たちに対しては「長島」という町が日本に存在していることを伝えたかったのです。私はこの長島町初の映画をPR重視した地元の人しか喜ばないご当地映画にはしたくなかった。もっと普遍的で未来まで語り継がれるような映画にしたかったのです。子育てや家族、仕事など人生で悩み迷い、打ちひしがれている人がこの映画を観たり、長島の存在を知ることで救われる、そんなことができたらめちゃくちゃ嬉しいですね。

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逆に長島に住んでいる人に対しては「長島」はこんなに豊かなところなんだということを改めて伝えたかった。今日本では「地方創生」がキーワードのようにあちこちで叫ばれています。でも私はその本来の意味が取り違えられているんじゃないだろうか、と感じています。

「地方創生」とは外から来た人が何かをやってくれる、そういうものではなく、そこに暮らす人たちがやっていく、作っていくんだという主体的な気持ちが必要だと思います。そういう思いの人を後押しする作品であることを伝えたいです。

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初めて映画製作に携わって良かった(大変だった)と感じられたことは何ですか?

ほぼすべてが大変でした(笑)。プロデュースと言っても、資金繰り、町内・町外でのPR、ポスター貼り、台本チェック、撮影場所交渉など仕事は多岐にわたって、要はなんでも屋です(笑)。しかも時間と人は限られている。映画を観る環境が身近にない長島で、映画づくりを伝えていくことは最初は大変でした。それでも地元の人たちで構成した映画実行委員会を中心に、映画製作への寄付や撮影協力を仰いで少しづつ前に進んでいきました。辛抱強く地元の人たちと交流を重ねて、一緒に酒を飲んで少しづつ少しづつ理解されていきました。

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サラリーマンをやっていた頃、会社に求められていたことは「効率」でした。ある程度ルールが敷かれたなかで如何に早く効率的に処理することが出来るか、が問われていました。しかし映画作りは非効率だらけです。何度も納得するまで話し合い、壊して作る、その繰り返しの毎日。その中から生まれてくることがある。話し合いのおかげで推定100リットル以上の焼酎を飲みました(笑)私の人生の中でここまで「一心不乱」に突き進んだのは初めてでした。それらを通じて気づいたことは「いいものを追い求めるときに、近道ってないんだな」ということでした。

プロデュースという仕事を通じて人前に立つことも増えましたし、いろいろなことを受け入れる"覚悟"が出来たと思います。

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豊和(とわ)役に松原豊和君を選んだ決め手は何だったのでしょうか?

物語の鍵を握る少年役は町内で行われたオーディションで選ばれました。松原豊和君を選んだ決め手は、ひとことで言うと「人を惹きつける魅力がある」ということです。つい目で追ってしまうような。。。私のイメージでは「ニューシネマパラダイス」のトトのような子でした。男女問わず可愛いと感じるような愛らしさ。彼は初めての映画出演でしたが、撮影中も成長していく姿を見せてくれましたね。

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長島町初の映画で大勢のエキストラが参加されましたが、彼らの"熱"の入り具合はどうでしたか?

エキストラとしては約300名もの方々にご参加いただきました。長島町住民には「防災無線」というラジオが役場から支給されており、役場や集落からのローカル情報はその防災無線を通じて流れてくるのですが、エキストラ募集も集落の公民館長にお願いして防災無線で呼びかけてもらったんですよ。
「明日●●時に●●へ集まってください。」という風に(笑)

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市場食堂内部 撮影風景②.jpg

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外で立って撮影を見守る大人たち.jpg

映画のラストは夏祭りの太鼓のシーンで100名以上の方々に参加していただいたんですが、撮影時は12月。その日は撮影期間の中でも一番寒い日で最高気温はなんと8度でした。真夏の設定ですから衣装は夏の装いです。撮影中カットがかかるとみな一斉に上着を取りに行って暖を取る。撮影は何カットも取りますから着たり脱いだりの繰り返しでしたが、皆さん寒さに耐えてがんばってくださいました。子供たちのお母さんや豊和のおばあさん役の木内みどりさんらも撮影の合間には温かい味噌汁をカップに入れて配ったりしてくれました。

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(©2019長島大陸映画実行委員会)

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小楠さんが「夕陽のあと」の中で好きなシーンは何でしょうか?

タイトルが象徴しているようにこの映画は「夕陽」がとても大事な役割を果たすのですが、撮影期間中はずっと天気が悪くて夕陽の撮影が繰り越されたりしていました。そんな環境下で奇跡的に重要なシーンで夕陽が撮れました。嬉しかったですね。物語と切り離せない夕陽のシーンには思い入れがあります。

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(©2019長島大陸映画実行委員会)

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(©2019長島大陸映画実行委員会)

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(©2019長島大陸映画実行委員会)

どういう人に映画「夕陽のあと」を観てもらいたいですか?

テーマは「子育て」ですから基本的には女性に寄り添う作品です。世の中にはいろいろな女性がいてさまざまな生き方があります。人生に於いては人の力が必要になる瞬間があると思いますが、この作品が生きていく上での助けになれたらいいなと思います。

また私自身はまだ独身で男ですから女性の子育てという立場とは違いますが、男として大人として、独身とか性別に関係なく、自分自身無関係だとは思えません。男性でも子供が家庭にいなくても考えさせられることがあると思います。

観る人によって見え方や感じ方が変わってくる。そんな奥深い映画になったと思っています。

徹底的にリアリティにこだわった作品

映画「夕陽のあと」はフィクションでありながらいかに長島町をリアルに見せることができるかをとことん追求しました 。スタッフさんには何度もロケハンを重ねていただき長島の実状を理解してもらってきました。出演者さんも長島をとても理解してくださいました。役場職員の新見秀幸役の川口覚さんは自らお忍びで撮影開始前に長島町入りされました。そして長島に到着されてから、東町漁協の長元組合長(映画の実行委員長)にご自身で電話をかけ、組合長のお家に2晩泊めてもらったそうです。豊和の育ての親である日野五月役の山田真歩さんも長島町の民家に泊めてもらって、漁を体験されていました。豊和の祖母 日野ミエ役の木内みどりさんは用意された衣装ではなく地元の人が普段来ている服を着たいと仰って、実際にお借りして撮影に臨まれました。そのように長島町にどっぷり浸って役作りをされている役者さんには感謝の気持ちしかありません。漁のシーンは撮影用に作られたのではなく、実際の漁作業の中に役者さんが入って撮影されました。あくまでリアルにこだわったのです。

また、豊和の産みの親 佐藤茜役の貫地谷しほりさんは敢えて現地の方々とは距離を取って撮影に臨まれていました。とても複雑な心持ちで長島にたどり着いた茜を演じられたため、長島の町に馴染みすぎては違和感ありますよね。そういった、役作りを徹底していただいていたと近くで見て感じていました。本来、貫地谷さんはとてもお話しやすい方ですが、役作りの為に敢えて厳しい状況に自分を追い込まれていて、貫地谷さんがプロフェッショナルとして本気で臨まれていたことにとても感謝しています。(事実、貫地谷さんはインタビューで撮影中は毎日とても辛かったと仰っています。)

そういった役者さんたちの姿勢が「夕陽のあと」をリアルな作品に作り上げてくれたと思います。

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インタビュー後の感想

小楠さんの長島町、映画「夕陽のあと」にかける並々ならぬ熱い思いに圧倒されました。単なる町おこし、賑やかしの話題作り映画とは対極にある作品です。

公開時だけ話題になって翌年にはすっかり忘れられてしまうような薄っぺらい映画は作りたくない。ずっと先の時代まで語り継がれるような骨太の、現実から目を背けず真正面から向き合った作品を作りたいという小楠さんの執念 。

この作品を観終わった後、「あ~面白かった!長島町って素敵なところネ」なんていう感想は出てこないでしょう。事実、私も観終わってしばらくは口がきけませんでした。でも家に帰っても数々のシーンが何度も浮かんできました。私の心をつかんで放しませんでした。

受容、覚悟、自立、共生・・・

多くの人が今の時代に観るべき映画だと思います。自分には何ができるのかを考えるきっかけに。

映画「夕陽のあと」は明るいファンタジーではありませんが「生きていく」という、人間への紛れもない応援歌でした。。。

映画「夕陽のあと」

2019年11月8日(金)より新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー!

監督:越川道夫(『海辺の生と死』)

出演:貫地谷しほり / 山田真歩 / 永井大 / 川口覚 / 松原豊和 / 木内みどり

脚本:嶋田うれ葉
音楽:宇波拓
企画・原案:舩橋淳
プロデューサー:橋本佳子
長島町プロデュース:小楠雄士
撮影監督:戸田義久
同時録音:森英司
音響:菊池信之
編集:菊井貴繁
助監督:近藤有希

製作:長島大陸映画実行委員会制作:ドキュメンタリージャパン配給:コピアポア・フィルム

2019年|日本|133分|カラー|ビスタサイズ|5.1ch

>>>長島町ってどんなところ?

>>>鹿児島県長島町の映画「夕陽のあと」を観た感想

映画「夕陽のあと」公式サイトはこちら

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シンジーノ

3人娘の父で、最近は山歩きにハマっているシンジーノです。私は「お客さまが”笑顔”で買いに来られる商品」を扱う仕事がしたいと思い、旅行会社に入って二十数年。今はその経験を元にできるだけ多くの人に旅の魅力を伝えたいと“たびこふれ”の編集局にいます。旅はカタチには残りませんが、生涯忘れられない宝物を心の中に残してくれます。このブログを通じて、人生を豊かに彩るパワーを秘めた旅の素晴らしさをお伝えしていきたいと思います。

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