東京ミッドタウンのデザイン施設「21_21 DESIGN SIGHT」で 日常生活を豊かにする民藝を観る、感じる

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<2007年3月30日開館の「21_21 DESIGN SIHGT」は緑豊かな東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン内に立地>

1925年に思想家の柳宗悦(やなぎむねよし)は無名の工人が作る民衆の日常品の美に注目。『民藝(みんげい)』の新語を作り、新たな美の概念の普及と「美の生活化」を目指す民藝運動を展開しました。柳が選び、集めた工藝品は目黒区駒場の日本民藝館に約1万7,000点収蔵されていますが、そのうち146点を無印良品のアドバイザリーボードなどで知られ、国際的に活躍するプロダクトデザイナー深澤直人さんが選出。東京ミッドタウンの「21_21 DESIGN SIGHT」で開催中の「民藝 MINGEI - Another Kind of Art展」にて展示しています。『民藝』の凄さをデザイナーの視点で案内する興味深い場を訪ね、日本民藝館における展示との違いを考えつつ、直観的に物を選ぶヒントを得た、素晴らしい機会となりました。

目次

日常のものごとをデザインの視点で発信・提案

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<東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン>

「東京ミッドタウン」においてデザイン文化の発信地となる施設のひとつが「21_21 DESIGN SIGHT(トゥーワン・トゥーワン・デザインサイト)」です。モダンなショップやレストランが集まる一角から少し離れ、「ミッドタウン・ガーデン」のなかに建てられています。訪問者は豊かな緑と、流れる水のせせらぎになごみながら施設へと向かえるアプローチに、まず格別な心地よさを覚えました。

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<シンボルマーク「プロダクトロゴ」。グラフィックデザイナー佐藤 卓さんが手がけた>

「21_21 DESIGN SIGHT」はデザインを通じて、日常のさまざまなできごとや、ものごとについて考え、世界に向けて発信、提案を行っています。名前は英語で優れた視力を意味する「20/20 Perfect Vision(Sight)」に由来。デザインの役割はさらに先を見通すものでありたいという想いがこめられているそうです。「日常」をテーマにした展覧会、トークイベント、ワークショップにより、訪れる人が生活を豊かにし、思考や行動の可能性を広げてくれるデザインの楽しさに触れ、新鮮な驚きに満ちた体験をできる空間になっています。

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<地下へ下りる。光の陰影が劇的かつ繊細で神秘的な感覚に魅せられていく。天気により、その心象は変わるだろう>

高さを抑えた「21_21 DESIGN SIGHT」の建物は周囲の緑地に溶けこんでいて圧迫感を感じません。とても控えめな外観で「小さな建築」と私の目には映りました。ところが、展示会場のある地下へ下りていくと、印象は一変。巧みな採光と人工照明により繊細に浮かび上がる空間には深い奥行きを感じさせられます。

じつはこの建物、床面積の約8割は地下に埋設。展示を観た人だけが、意外な広がりに感嘆することになるのです。設計した安藤忠雄さんは、背景に立ち並ぶヒマラヤ杉に包まれるようにたたずむ建築をつくりたいと考えたといいます。この建物は安藤さんならではの設計コンセプトを、コンクリートの無垢な素材感、光の演出とともに、しっかりと体感可能な場にもなっていました。

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<地下の中庭に光と影のコントラスト。快晴の午後に眺めたら、ガラスが木々の緑と虹色に染まっていた>

民藝 MINGEI - Another Kind of Art展

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<地下ロビーに置かれた物たち。左手前は日本民藝館3代目館長・柳宗理さん制作の、館長室に置かれているテーブル。奥が柳宗悦さんの手がけた茶卓、幾何学文様の染色作品は柚木沙弥郎さんによるもの>

「21_21 DESIGN SIGHT」で開催中の「民藝 MINGEI - Another Kind of Art展」は日本民藝館の5代目館長でもあるプロダクトデザイナー深澤直人さんがディレクターを務め、同館の所蔵品から146点を選び抜いて紹介しています。サブタイトルは意欲的に活動を続ける染色家、柚木沙弥郎(ゆのきさみろう)さんから拝借したとか。

「僕が求めるのは、染色家という肩書や民藝というカテゴリーじゃない。『Another Kind of Art』なんだ」という言葉にハッとしたという深澤さんはこう述べています。

「柳が提唱した『民藝』も、実はそのものづくりに携わる人々の生き方を示しているのではないだろうか。(中略)形式や様式にしばられない飄々(ひょうひょう)とした態度。一定の仕上がりを求めない自由さが民藝にはある。私たちは民藝を愛し、尊敬し、民藝に心を動かされる。作者が誰かとか、いつどこでつくられたのか、といった情報は必要ない。ただ純粋にその魅力にくぎ付けになる。『これはヤバイ』と」。

私は批判を恐れない勇気ある解釈に、深澤さんの表現者としての強さを改めて感じました。そして最後の『ヤバイ』に心をグッとつかまれたのでした(笑)。ちなみに、日本民藝館3代目館長、柳宗理さんもプロダクトデザイナーでしたが、力みなぎる造形やインパクトある佇まいの工藝品を観るたびに『スゲエ!』と興奮し、圧倒されていたようです。両人には物の見方に共通点があるのかもしれませんね。

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<柳宗悦(中央)とともに、民藝運動の中心メンバーとなった陶芸家の濱田庄司(左)と河井寛次郎(右)>

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<最初の展示スペース「ギャラリー1 」に掲げられた柳宗悦の短い句「心偈(こころうた)」 の一句。「惚れ惚れとする物を観たら、両手を打って悦びなさい、讃えなさい」という物への愛情に満ちた教え。安藤建築を背景に、独特の灯りで照らし出される軸は、日本民藝館の空間とはまた違ったクールな雰囲気が漂う>

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<展示のイントロとして、「ギャラリー1」では、日本民藝館で展示する物を選ぶシーンや、現代のつくり手で民藝の精神を受け継ぐ人たちに声を掛けて、インタビューしたドキュメンタリー映像を上映>

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<日本民藝館館長になる前から深澤さんが蒐集していた物を「ギャラリー1」で披露。視点をなんとなく感じ取れる>

直観

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<「ギャラリー2」の展示。テーブルと壁際に配置されるのは柚木作品を含む日本民藝館収蔵品のみ>

今展覧会のメイン展示会場となるのが地下の「ギャラリー2」。ここには深澤さんが厳選した日本民藝館収蔵品が18のテーブルと壁際に分けて展示されています。ユニークなのはこの空間の物の置き方。物の時代と用途がさまざま。「ヤバイ!」という直観に沿った選出と同じく、テーブルごとにどんな物を集め、並べるか、概念にとらわれていないのです。深澤さんのインスピレーションで物が集まるテーブルや壁の装身具には、具体的な物の解説はあえて詳細になされていません。添えられるのは、その物たちを観て感じた短いコメントのみ。その一言がユーモラスたっぷりで、すっと心に留まります。「知識ではなく、物を観て、直観的に佳いかどうか、そしてなぜ佳いと思うのか即答せよ」。こう柳宗悦は直観で物を観る大事を説いていましたが、その鮮やかな心眼を深澤さんの物の選択と、惹かれた理由から伺える気がします。

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<テーブル展示の一例。左奥の火鉢と右端の七輪を観て、深澤さんは「民藝はヤバイ」と思うきっかけになったとか>

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<東北の「菱刺たっつけ」(大正時代ごろ)には「ファッショナブルだ。大胆だ。」のコメントが添えられる>

かわいい

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<素朴でかわいいは祈りに通じていると、深澤さんは微笑ましいかたちを選び取った>

「ギャラリー2」には、力強いかたちや優美な曲線、美しい文様などパッと眼がくぎ付けになる物だけでなく、思わず笑いを誘われる、かわいい物も選ばれています。朝鮮時代や江戸時代の像を集めたテーブルでは、愛らしく穏やかな表情や丸みを帯びた輪郭に魅了されました。深澤さんいわく「柳宗悦はかわいい物も好きだった。それは愛のかたち」。このコメントに深澤さんの人柄が表れているようです。素朴でかわいい。柳宗悦、そして深澤さんの眼と心の働きを想像しながら、物への深い情愛を感じ取ってみましょう。

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<江戸時代末期の蚊やり爐と、戦後・昭和時期の沖縄シーサー。このキュートさを現代に復刻できないだろうか>

自由

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<純朴な鳥が描かれたイタリアの絵皿とイギリスのスリップウェアに丹波・立杭の壺を並べる。実に自由だ>

「思わず手が伸びてしまう異端の魅力」。イタリアの皿やイギリスのスリップウェアを深澤さんはそう評しています。西洋の物には大らかな色や文様、かたちが多く、その朗らかさ、健やかさに柳も、深澤さんも手を伸ばさずにはいられなかったのでしょう。しかし、異国編のカテゴリーで並べたと思いきや、丹波・立杭の壺も何食わぬ顔でそばに置いている。戸惑いつつ、よく眺めると、なるほど伸びやかな文様という共通点で違和感なく混在しています。その広くて自由な物の選択には、自分の生活空間を物で楽しく彩るヒントが満載。そんな深澤さんのコーディネイト術を眼に焼きつけて、盗み取りたいものです。

さて、自由といえば、日本民藝館では通常展示されないような珍しい物も選ばれています。白い釉薬を掛けた小さな便器に、いろいろな陶磁器を組み合わせて並べる。日本民藝館の展示様式を知る人には、こんな突拍子のなさに唖然としてしまうかもしれません。

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<昭和の便器から中国・北宋時代の茶碗まで、カテゴリーを超越した陶磁器が並ぶテーブル>

柳の気配

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<家のかたちにデフォルメした沖縄と朝鮮時代の水滴などが並ぶ。日本民藝館の展示を彷彿とさせた>

自由奔放に、直観のままに、物を選んだ深澤さんですが、 柳宗悦の気配をことさら強く感じたテーブルがありました。それは水滴という道具だけを集めた展示。ここはひとつのカテゴリーにくくられています。物も並列ではなく、ずらして置いているのですが、リズムカルな並びが日本民藝館のそれに似ているように思えました。かつて柳宗理さんが日本民藝館の館長に就いたとき、はじめは父に反発していたそうですが、晩年は物を選ぶ視点が不思議と宗悦に近づいていったそうです。その変容もまた「民藝はヤバイ」を物語っているように私は考えます。深澤さんも、もしかしたら『民藝』にじわじわと取り込まれつつあるのかな、なんて思い、しばらくそのテーブルから離れられなくなってしまいました。

現代の良い物

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<ショップスペースに並ぶ工藝品。右が「星耕硝子」の吹きガラス製品>

展示に眼も心も幸せに充たされたら 、『民藝』の精神に通じる工藝品を買いたくなるもの。そうした気分に応えてくれるスペースが1階ロビーの「21_21 DESIGN SIGHT SHOP」に登場しています。自然光あふれる明るい空間には、カゴ、ザルや焼き物に並んで、秋田の吹きガラス工房「星耕硝子」の製品が販売されていて感激しました。この工房の伊藤嘉輝さんは、まさしく柳宗悦が嬉々として選ぶような、健やかで美しい日用品を手がける誠実なつくり手。手ごろな値段ですので、ぜひ求めて、日々使われることをお勧めします。きっと、『民藝』の凄さが暮らしにもたらされると思いますよ。

21_21 DESIGN SIGHT「民藝 MINGEI - Another Kind of Art展」基本情報

■住所:東京都港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン
■開催期間:2019年2月24日(日)まで
■開館時間:10:00~19:00(入館は18:30まで)
■休館日:毎週火曜日(2018年12月25日は除く)、2018年12月26日~2019年1月3日
■入館料(税込):一般1,100円、大学生800円、高校生500円、中学生以下無料
※15名以上は各料金から200円引き
※会期中は日本民藝館との相互割引を実施
■電話:03-3475-2121
■HP:http://www.2121designsight.jp/program/mingei/

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ヤスヒロ・ワールド

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