日本一好きな浅草「パンのペリカン」の食パンを買う、食べる

つくるパンは食パンとロールパンの2種のみ。潔いほど限られた種類のパンは予約なしでは昼前に売り切れてしまう人気ぶり。近所の人はもちろん、私のように遠くから足を運んでも買いたい、食べたいと思わせるパン屋さんが浅草の「パンのペリカン」。個人的に日本一おいしいと夢中になっている、こちらのパンについて、想い入れたっぷりに綴ります。

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ロールパンと食パン。店奥の工場でつくられています

中年男性客が多いパン屋さん

浅草・雷門の賑わいからほどよく離れた国際通り沿いに立地する1942年創業「パンのペリカン」(以下、ペリカン)。私は浅草に出かけたついでに予約しておいたパンを受け取りに向かうことが多いです。人混みが苦手な自分は観光中心地の喧噪と比べ、落ち着いたこの通りを歩いているとホッと安堵します。同時に大好きなパンをまた食べられる嬉しさで気分が昂揚していきます。間口の狭い店はてきぱきとパンを焼く職人さんが奥に見え、入口近くで販売スタッフがスピーディに応対。正直、武骨な印象です。しかし、このきりっとした活気が私にはとても心地よく感じられます。

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奥に細長いペリカン店舗。最寄り駅は銀座線「田原町(たわらまち)」

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ひっきりなしに注文の電話が鳴る店内。入って右側の棚に予約を受けたパンが並びます。確実に購入するなら、訪問2~3日前の連絡をお勧めします(注文は一ヶ月前から受け付けています)

名前を告げ、パンを受け取る。店頭に居るのは時間にして1分もないでしょう。タイミングによってはお客さんが並ぶ場合もありますが、それほど待たされません。欲しいものを素早く買える。パンは基本2種のみなので、悩まず買える。面倒のない、この簡潔さが受けるのでしょうか。お客さんは中年男性が目立つというのが店の特徴だそうです。

「普通の」おいしさに感銘

私は今、三浦半島の葉山町に暮らしています。パン好きな住民と大小のパン屋さんが多い地域です。パン生地を膨らませる天然酵母を育て、上質な材料を厳選し、主材料の小麦を栽培するパン職人の友人もいます。しかし、それら個性的なパンは私には少し高価で、気軽には口にできません。また、私がおいしさの基準と考える「食後にもたれず、幸せな気持ちよさが長く余韻となって残るパン」にはなかなか出合えないでいました。

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毎日、食パンは約400本、ロールパンは約4,000個売れるとか

そんなとき、たまたまペリカンの食パンとロールパンを食べて驚きました。自分の求めていたパンはこれだ!と直感が走ったのです。生地のずっしりとした密度、モチモチとした食感、柔らかさ、ほのかな甘さ。ロールパンは艶を出すために卵を表面に塗ることをしていません。もちろん、どちらも防腐剤は不使用。それらが体にやさしい味わいを生んでいる気がします。声高に主張しない普通のおいしさ。体と心にじんわりと沁みこみ、私は快楽的な余韻に浸れます。何度食べても同じ感銘を覚えるのがすごいなぁと思います。

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食パンは大・小、角食パンと山型パンの2タイプ。ロールパンは中・小サイズがあり、ほかにドックとバンズも販売

変わらない強さ

なぜパンの種類を2つに絞ったのか4代目店長の渡辺 陸(りく)さんに伺いました。種類を限定したのは陸さんの祖父である2代目の渡辺多夫(かずお)さん。喫茶店とパン屋さんが急増した昭和25年(1950年)頃、小売から卸し中心に変換し、他店との差別化で食パンとロールパンに特化。陸さんはそんな祖父の考えを今は継承していこうと考えています。

「うちがカレーパンをつくったら、むしろ残念がられるでしょう。お客さんの期待がある限り現状のままやっていけたらなと思います。私の強い想いというより、ずっと続いた積み重ねの上で私が継いでいるから、そのかたちでやっていこうという感じです」。

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平らなため、積み重ねて大量輸送しやすいアメリカ式の角食パン。初代が進駐軍が食べるパンを見て、導入したもの

パンの製法も陸さんの曽祖父である初代・渡辺武雄さんの時代から継がれ、小麦、水、塩、砂糖、バターなどに凝ったものを使い過ぎないことも不変。2代目は「ご飯がわりに毎日食べてもらいたい」と、合わせるジャムや惣菜などの「おかず」よりパンが目立たないように材料の配分を考えていたそうです。陸さんは自分のこれからの展望をこう語ります。

「私が行うのはパンの味を守ることや、みんなの働く環境を整えることかなと思います。今後の展開に関しては、時代の流れをみながらという感じになるでしょうか。とくに私が強い意思で、たとえば海外に出したいとか、新しいパンをつくりたいとか、そういうのはないです。ただ、うちは浅草で商売をしていることで非常に助けられていると思うので、浅草の盛り上がりに貢献できることはしたい。『浅草のペリカン』と認識してもらえるのがいちばん嬉しい。そこは今後もたいせつにしていきたいです」。

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現在の店名は2代目のニックネームに由来。2代目が友人の芸大生に依頼したロゴが洒落ています

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角食パン・小のパッケージを表紙にレイアウトした映画『74歳のペリカンはパンを売る。』のパンフレット

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私はペリカンの紙袋をブックカバーに活用しています。食パンの香りをほのかに感じながらの読書が◎

おいしさは愛情から

私は取材前、ペリカンの魅力を丹念に伝える映画『74歳のペリカンはパンを売る。』を鑑賞しました。この映画でとくに心に留まったのは、45年以上のキャリアをもつパン職人・名木(なぎ)広行さんの実直な言葉。おいしさを追求し、パンづくりをさまざまに試行してきたという名木さんは「愛情をこめてつくっているからおいしくなるんです」と語ります。その一言に膝を打ちました。食材の吟味も大切でしょうが、何より大事なのはつくるものに注ぐ愛情。心と体を心地よくする食べ物ってそういうものだよなぁと合点がいき、ペリカンのおいしさの真理に触れられた気がしたのです。

00310_1701202_010.jpg©2017 ポルトレ

映画『74歳のペリカンはパンを売る。』(制作プロダクション:ポルトレ、配給:オルケスト)。浅草周辺の地域、パンをつくる人、売る人。ペリカンをめぐる情景と想いを静謐な映像が美しく見事にとらえています

公式HP http://pelican-movie.tokyo/

ペリカンカフェ

ペリカンから歩いて約2分。同じ国際通りにオフィシャル・カフェが開店したのは2017年8月28日のこと。私は取材当日が初訪問となったのですが、大きなガラスと木で構成されたエクステリアから中の様子が見える、開放的な景色にまず気持ちが華やぎました。

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温かな趣きの「ペリカンカフェ」。満席のときは入口で名前を書いて待ちます

心浮かれて横に並ぶテーブル席につくと、モダンな空間でありながら、通い慣れた喫茶店のように、すぐに空間に馴染めました。ペリカン代表取締役・渡辺 馨(かおる)さんの目指したのは「格好よすぎず、レトロすぎない雰囲気」。浅草の一角で、個人商店が多い周辺の地域と違和感のない店づくりを心掛けたそうです。その配慮が入りやすさと、佳い居心につながるのでしょう。カフェはひとりで臆せずに憩う中年男性客がとても多いそうです。

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ファンシー過ぎず、小粋でポップなロゴ。愛らしいペリカンの顔とコーヒー豆が融合したデザインです

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白木の椅子と木のテーブルがナチュラルな雰囲気を醸し出す空間。ロゴのくちばしと同じ黄色が店のテーマカラー

もともとペリカンのお客さんや知り合いからは「なぜカフェをやらないの?」と言われていたという馨さん。それで、店を開くならペリカンの近く、目の届く場所でと物件を探し、ついに望んだ場所に出店できたのだとか。店の立地は隅田川近くの倉庫を改装した飲食店が急増中の台東区蔵前と浅草の観光中心地の中間あたり。普遍的な人気観光地と話題エリアを歩いてまわる途中でペリカンのパンを買い、カフェでそのパンを味わう。パンを愛する人には魅惑の散歩コースとなりそうです。

味わいかたの提案

「ペリカンカフェ」のイートメニューはトーストとサンドイッチなど食パンを軸に構成されています。そのメニューからはどう食べるとペリカンのパンがよりおいしく生かされるのか、ヒントをもらえるように思います。最初にいただいたのは「炭焼トースト」。炭火で焼いたパンに国産バターを乗せたシンプルな一品。陸さんもこの食べ方をふだんいちばんよくしていると言います。

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炭火の遠赤外線効果で、外はカリッと、中はふんわりと焼き上がります。厚めに食パンを切るのもポイント

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食パンの焼き型をイメージしたアルミプレートでサーブされた「炭焼トースト」と、パンに合うオリジナルブレンドのコーヒー。カップは益子焼作家によるもの

続いていただいたのは「本日のトースト」。シェフのフレンチ流アレンジが独創的なトーストです。ペリカンのパンは幅広い具材を引き立てる包容力があり、「パンはごはんであるべき」という考えが実感とともによくわかります。

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取材当日の「本日のトースト」。カキとほうれん草のクリーム煮

そして、これもぜひ!とお勧めされたのが「フルーツサンド」。テーブルに供されたとき、明るく華のある果物の色に心ときめきました。シェフが彩りに気を配っているという旬の果物は、フロマージュブランというフランス産のチーズをまとい、少しさっぱりとした風味。食パンのやさしい味わいを消すことのないバランスに魅せられました。

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インスタ映えする「フルーツサンド」

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ペリカンの角食パン・小がおさまる桐箱とロゴ・ファイルなどオリジナル商品をカフェでは販売しています。ペリカンについて詳しく知ることができる『パンのペリカンのはなし』(二見書房)もファンは必読!

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渡辺 陸さんと馨さん。気さくで飾らない二人の人柄も魅力的

家で食べる

憧れのペリカンを取材できた翌朝、ペリカンの食パンを自宅でも楽しみました。食べ方は決まっています。トーストしてバターを溶かし合わせるだけ。ただ「パン=ごはん」自体のおいしさをストレートに味わい尽くしたいと願うからです。家の土間に備えた業務用ガスオーブンのトレイに水を入れ、遠赤外線で蒸し焼きすると、表面はカリッと、中はふっくらと焼き上がります。そうして、私の大好きな真四角の洋皿に載せます。一般の角食パンより小ぶりで、アメリカでは一般的サイズという正方形のパンは、この洋皿に美しく収まります。その景色に惚れ惚れしながら、深煎りのコーヒーとともに堪能。これはあくまで私が理想とする味わい方ですが、人の数だけ食べ方のバリエーションはあるはずで、そうしたあらゆる嗜好を、ペリカンのパンは大らかに受けとめてくれると思います。

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いつも角食パン・小を業務用ガスオーブンで焼き、好きな器でいただいています

パンのペリカン

住所:東京都台東区寿4-7-4
電話:03-3841-4686(電話受付は15:30まで)
営業時間:8:00~17:00
定休日:日曜・祝祭日
HP:http://www.bakerpelican.com

ペリカンカフェ

住所:東京都台東区寿3-9-11 1階
電話:03-6231-7636
営業時間:8:00~18:00(ラストオーダーは17:00まで)
定休日:日曜・祝祭日
Instagram : asakusapelicancafe

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ヤスヒロ・ワールド

東京佃島生まれ育ちの江戸っ子。旅行ガイドの編集者。
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