たびこふれ

自由が丘へ、友達になれる美しい織物を観に行く

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最終更新日:2017/09/06

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自分の知らないアジアに出会いたい。そう願う方にアジアの高地を巡る旅が人気です。

中国の四川省や雲南省、貴州省。インド最北部のラダック。チベットなどに惹かれる人の多くは旅の明確な目的、テーマがあるようです。少数民族や周辺国に亡命した人も含めたチベット人など、豊かで、厳しくもある自然環境に暮らす人たちが日常で身につけているもの、独特の文化を見たい、知りたいという気持ちが強いように思います。

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ヤクや羊の毛を織り、染めたインド・ラダックのドレスや上衣。「ティクマ」という十字絞り文様が表面にちりばめられています。アースカラーの荒涼とした大地に生きる庶民の心を、紫や藍、黄などの色がどれだけ和ませたことでしょうか。

そうしたアジアの高地への旅に憧れている人、旅してきた人に訪問をお勧めしたいのが自由が丘の「岩立フォークテキスタイルミュージアム」。ここは、館長の岩立広子(いわたて・ひろこ)さんが約50年間、インドを中心に世界各国を旅し、収集してきた染織品を展示する、小さな美術館。ガイドブックなどの情報が乏しい1965年以降、現地の人々と暮らしに触れ、名もなき職人がつくる布に魅せられた岩立さん。生活の中から生まれたものを求めて、深い領域を探し歩く旅を続けてこられ、今も出合いの旅の途上にあります。80数回は渡航したというインドのものが約4,000点、その他の国は約4,000点、計8,000点余りの染織品を所蔵。年3回の展覧会を企画、運営しています。

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19世紀後半〜20世紀前半の、チベット十字絞り毛布で、素材は羊毛。上はカイガラムシの色素で染めた1枚、下は藍染。多田等観氏の御息女から譲り受けたものです。

現在、この美術館では中国のイ族、チベット、ブータン、インド北部の人々の暮らしを彩り、支えてきた美しい染織品が選ばれ、展覧会が催されています。展示は十字文様「ティクマ」があしらわれた織物を中心に構成。僧侶・チベット仏教学者の故・多田等観(ただ・とうかん)氏がチベット滞在中(1912~1923年)、厳冬のラサで日々、体を温めていた毛布2枚が館内に入るなり目に飛びこんできました。

100年近く前のものなのに、状態がとても佳いのにも驚きます。もともと、この2枚は湿気の少ない北の地で大切に保存されてきたようですが、岩立さんが迎え入れた当初は汚れ、穴が空き、破れていた染織も。毛布や服、敷物など使用者にとっては美術品ではなく、頻繁に身にまとう日用品ですから当然のこと。それを、染料の性質を見極めつつ汚れを落とし、傷みを修繕してから展示しているそうです。染織の魅力を最大限引き出そうと、ひとつひとつ心を砕いて展示しているのが伝わってきます。布への深い見識と経験、何より愛情が空間に満ちあふれているようで、素材同様、温かなものに包まれているような感銘を受けました。

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「ティクマ」の意味は諸説ありますが、十字の交点に宇宙全体のパワーが集まるとか。チベット人は日用のあらゆるものに十字文様を用いて、生気を呼びこもうと祈りをこめたのでしょうか素晴らしい展示品に見入り、同時にこのような美しいものと向き合う時間、経験が奇跡のようにも感じ入ります。チベットの伝統文化が失われつつある現況。織物も化学染料を用いたものが増えてきているようです。それでも、昔ながらの簡素な文様と穏やかな色彩、作為のない織物。懸命に生きる庶民の心に温もりをもたらした素朴で、質素で、友達のように親しみ深く、清らかで美しいものを、幸運なことに、自由が丘で愛でることができます。

自身の心眼で選び抜き、その美を伝えようとする岩立さん。その尊い活動に深謝したくなります。岩立さんが感得するティクマの魅力について尋ねました。「文様の輪郭がぼやけていて、やわらかい風情なのが佳いですね。それに、それぞれの文様のかたちが違いアットランダムなことも。ウールやヤクの生地にポッと咲くような景色。岩だらけの風景を背景に、ティクマ文様のスカートが揺れ動き、十字が舞うのを想像すると、強い印象が心に残ります」

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縁にティクマを配した敷物。龍の爪の数によって使用する身分が表されるといわれ、5本は皇帝、4本は貴族、3本は庶民を表すそうです。空間を満たす、多くの十字文様から活力をたっぷりとチャージし、私もなぜこの文様に強く惹かれるか、その理由に思いをめぐらせるうちに、自身のルーツに遡るような不思議で、壮大な旅の至福に浸ることができました。私を夢心地にした、十字文様のほかに、強く心が揺れた織物がありました。それは、中国四川省に暮らすイ族の衣装でした。

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20世紀初めの、イ族の衣装。右端が重さ4.5kgもある、雨風から体を護るマント。勉強不足で知らなかったのですが、イ族は中国高地の少数民族のなかでも勢力は大きいそうです。そして、私は彼らの衣装に関してはミャオ族のように、緻密な刺繍と彩り豊かな「華」のある印象を先入観として抱いていました。ところが、岩立さんが選び、紹介するイ族の衣装はシンプルの極みではありませんか。その簡素な佇まいに、現代でもまったく色褪せない洗練を感じ、とりわけ分厚いフェルト加工の、見た目にも温かそうなマントには感嘆しました。

文様が出にくい生地の特性のため、無地なのかもしれませんが、装飾のない質素な風合いが魅力的です。「シンプルなものにすべてがこめられている。過剰な華が咲く以前にあったもの、文様以前のただの布きれ。そんな普遍性を持ったものに、いちばん惹かれます」と岩立さん。真に美しいものは100年以上もの時を超越して、私たちの目と心をとらえ続ける。織物は「もの」だけど、伝えたいのは単なる「もの」ではない。私たちにとって、かけがいのないことを岩立さんは、示してくれているのだと思いました。

「高地に暮らす人々の毛織物 ―中国(イ族)、チベット、ブータン、インド北部」

2017年11月11日まで、木・金・土曜日 10:00〜17:00 開館(入場は16:30まで)入館料:500円

岩立フォーク テキスタイル ミュージアム
東京都目黒区自由が丘1-25-13岩立ビル3F

Tel.:03-3718-2461

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